植物の新規耐塩性遺伝子
野生型シロイヌナズ (Columbia) 実生は,通常光 (26μmol m-2 sec-1) 下 200 mM NaCl 添加無糖培地において2週間以内に枯死する.合計 22,300 の変異原処理系統 [メタンスルホン酸エチル (EMS) 処理および T-DNA 挿入変異] を同条件下での生存を指標に選抜し,独立栄養生長が耐塩性になった突然変異体 pst (photosynthetic salt tolerance) を2系統得た.これら2系統は,遺伝学的解析を行ったところ,quantitative trait loci (QTL) によって支配されていると考えられた.塩が植物に与えるストレスとしては浸透圧が考えられ,pst における浸透圧調節物質プロリンの蓄積を測定したところ,野生体と比較して有意な差は認められなかった.一方,塩培地における野生体の生存率は,光などの他の環境要因によって強く影響を受けることを見いだした.このことから,パラコート (メチルビオローゲン) を用い,pst の活性酸素耐性について検討したところ,pst1 は野生体と比べ生存率において約 10 倍耐性であることを見いだした.さらに,葉緑体における活性酸素消去系として知られているスーパーオキシドジスムターゼ (SOD) およびアスコルビン酸ペルオキシダーゼ活性が,pst1 において増大していることが明らかになった.
変異遺伝子座の同定が容易なアクティベーションタギングをシロイヌナズナ従属栄養培養細胞に適用し,基本的細胞機能おいて耐塩性を獲得した stc (salt-tolerant callus) を選抜し,現在までに 18 に及ぶ新規な耐塩性遺伝子座を見いだしている.